まず、癖に気付いたのはコーチだった。
卓球をしていた私は、スマッシュやサーブのミス、
相手の攻撃を止められないと
「ぽりぽり」と鼻の下を掻いてしまう。
「お前なぁ、考えてるのか知らんけど、相手は苦手意識持ってると気付くぞ」
と言われてもぽりぽり。
一応、言い訳するけど、掻いている間、私は考えている。
打球の角度とか球の回転数とか、次はどこを狙えばいいのかだとか・・・。
しかし、うるさく言われるのも嫌だったので、
出来るだけ掻かないようにしていると、ムズムズ、ムズムズ・・・。
そんな感じで逆に考えがまとまりづらくなった。
学生のテスト中の貧乏ゆすり、野球選手がガムを噛む事、
会議後のサラリーマンの一服、そんな事と同じなのだと思う。
緊張感で精神的に疲れそうな時、
日常的な事を組み合わせる事で平静を保とうとするのだ。
そんな事を子供ながらに思っていたから、
鼻の下を掻く事を悪い事だとは思っておらず、
むしろ勝つ為の手段で格好いいとさえ思っていた。
今思えば、恥かしいな!
その癖が無くなったのは高校生になり、アルバイトをした時だ。
自宅近くのお菓子工場でアルバイトを始めたのだ。
工場の中は清潔でないといけない、食中毒なんてもってのほか!と、
ここまで書けば知っている人は気付くのではないだろうか?
黄色ブドウ球菌である。
この菌は、人の皮膚にいるが、体内に入ると食中毒になってしまう。
この菌が、人の皮膚のどこが好きかというと、鼻の下なのだ。
この事実を知らされて以来、私は緊張しても鼻の下を掻くのは止めた。